パイロット事業 – 2023年度

現代美術を専門とする学芸員は、プロジェクト型の作品やパフォーマンスを含む作品、アーカイブの展示など、従来の展覧会制作にかかる業務を常に拡張してきたと言えます。パイロット事業「キュレーションを公平(フェア)に拡張する」シリーズでは、こうした学芸員の知見を実際の障害のある人の現場と接合し、新しい展覧会のあり方を探る試みです。

二年目は、ゲストキュレーターに東京都現代美術館学芸員の藪前知子氏を招聘し、阿部美幸氏、田湯加那子氏の二人展「君のための絵」を開催しました。開幕初日には画家でアイドル愛好家の松村早希子氏をゲストに、ファンアート、コンテンポラリーアート、アール・ブリュットの境界について考えるトークイベントを開催し、アーカイブ配信も行いました。

展覧会名
「君のための絵」
会期
2024年1月13日(土)〜2月12日(月・祝)12:00〜18:00
※ 入場は17:30まで/会期中の金・土・日・祝のみオープン
会場
HAPS HOUSE(京都市南区東九条東山王町1)
入場料
無料
参加作家
阿部美幸(あべ みゆき)
1981年生まれ。1999年より社会福祉法人みぬま福祉会「川口太陽の家」に所属。2002年より同法人が運営するアトリエにて絵を描き、併設のギャラリーにて作品を展示するようになる。2011年に展覧会「ガールズミーティング」(マキイマサルファインアーツ、浅草橋)の出展作家に選ばれ、以降、作家としての活動を続けている。 https://kobo-syu.com/artists/阿部美幸/

田湯加那子(たゆ かなこ)
1983年生まれ。北海道白老町在住。10歳の時から、学校の友達やテレビで見た歌手などを題材にした人物画を描くようになる。2005年の初個展以降、継続的に作品を発表する。近年参加した主な展覧会は「すごいぞ、これは!」(埼玉県立近代美術館ほか、2015〜16年)、「Art Brut et Bande Dessinée」(Collection de l’Art Brut – Lausanne、2022〜23年)。
ゲストキュレーター
藪前知子(やぶまえ ともこ)
東京都現代美術館学芸員。主な企画に「大竹伸朗 全景 1955-2006」(2006年)、「山口小夜子 未来を着る人」(2015年)、「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」(2015年)、「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」(2019-20年)、「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」(2020 – 2021年)、「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」(2021-2022年)など。札幌国際芸術祭2017など外部企画のキュレーターや、美術を中心とした評論活動で寄稿多数。
ディレクション
遠藤水城、奥山理子(一般社団法人HAPS)
コーディネーション
佐藤真理
アートディレクション
いすたえこ
展示施工
鬣恒太郞、神馬啓佑
制作
一般社団法人HAPS
協力
社会福祉法人みぬま福祉会 工房集、田湯憲明、田湯ひろみ
本展Instagram
@a_picture_for_you_haps
撮影:守屋友樹
撮影:守屋友樹
撮影:守屋友樹
撮影:守屋友樹
撮影:守屋友樹

関連トークイベント

自分を作ってきたアイドルや「推し」たちの肖像を「ファン・アート」と「コンテンポラリー・アート」の境界を意識しつつ発表してきた画家の松村早希子と本展キュレーターが、それらといわゆる「アール・ブリュット」という領域との関係や、絵を通したコミュニケーションなどについて考えるトークを開催しました。

日時
2024年1月13日(土) 14:00〜15:30
出演
藪前知子
ゲスト
松村早希子(画家/アイドル愛好家)
会場
HAPS HOUSE
定員
10名(要予約)
ゲスト
松村早希子(まつむら さきこ)
1982年東京生まれサブカル育ち
多摩美術大学美術学部絵画学科卒
物心ついた時から、かわいい人が大好き
個展「わたしの かわいい はどこから来たのか 〜かわいい源泉掘りおこし〜」 (ストロベリー・スーパーソニック、高円寺、2022年)
https://www.instagram.com/sakiko427/
http://sakiko427.tumblr.com/

カタログ

発行日
2024年3月31日
発行元
一般社団法人HAPS
編集
奥山理子、佐藤真理
デザイン
有佐祐樹
写真
守屋友樹ほか
印刷
イニュニック
頁数
72頁

本展開催にあたって

この展覧会は、これまで「アール・ブリュット」などの名称で呼ばれてきた障害がある人たちの表現領域を、現代美術の分野で活動してきたキュレーターが調査し、企画するものです。近年、障害のある人たちの表現活動は大きく発展し注目も集めています。しかしそこには、彼らの表現を、特別なものとみる視点が存在していることも確かです。「芸術家」や「作品」といった概念は誰がどのように決めてきたのでしょうか。彼らの作品を見るときに自然に浮かんでくるこの問いから、私たちは、当たり前のように使われてきたこれらの言葉について、いまだ十分に議論が尽くされていないことに気付かされます。個人のこだわりから生まれる何かが、表現になり、社会に出て広く他者に共有される「作品」になる。これらの概念は、本来このプロセスの過程で、その都度考察され、更新されるべきものではないでしょうか。こうした考え方を、一般社団法人 HAPS とキュレーターが共有した上で生まれたこの展覧会が、障害のある人たちの表現活動が広がる、一つのきっかけになることを願っています。

パイロット事業 – 2022年度

滋賀県立美術館 館長(ディレクター)の保坂健二朗氏をゲストキュレーターに招聘し、HAPS HOUSE内のギャラリーを会場とした古谷渉氏の個展「私はなぜ古谷渉を選んだのか」を開催。障害のある人が関わる文化芸術活動を拡張する基盤をつくる本事業の先駆的な取り組みとして、気鋭のキュレーターとともに開かれたアートシーンの形成をめざします。

展覧会ちらし

展覧会名
キュレーションを公平に拡張する vol.1「私はなぜ古谷渉を選んだのか」
会期
2023年1月7日(土)〜29日(日)11:00〜19:00
※入場は18:30まで/会期中の金・土・日・祝のみオープン
会場
HAPS HOUSE(京都市南区東九条東山王町1)
入場料
無料
出展者
古谷渉(ふるたに わたる)
1974年生まれ。東京都在住。幼少から変わっているのかいじめられ自信を失い病がありつつも2010年頃から絵を描き始める事で今にいたる。ポコラート全国公募Vol.6(2016年)にて保坂健二朗賞を受賞。
ゲストキュレーター
保坂健二朗(ほさか けんじろう)
1976年茨城県生まれ。2000年慶應義塾大学大学院修士課程修了。2000年から2020年まで東京国立近代美術館に勤務。2021年より現職。主な著作に『アール・ブリュット アート 日本』(監修、平凡社、2013)など。文化庁および厚生労働省による障害者文化芸術活動推進有識者会議の委員も務める。
ディレクション
遠藤水城、奥山理子(一般社団法人HAPS)
コーディネーション
佐藤真理
グラフィックデザイン
神崎奈津子
スライドショー撮影
飯川雄大
展示施工
鬣恒太郞、十河陽平(SOGO Technical Design)
協力
社会福祉法人おいてけ堀協会、佐藤あい、西野裕貴、高橋妙子
撮影:守屋友樹
撮影:守屋友樹
撮影:守屋友樹
撮影:守屋友樹
撮影:守屋友樹
撮影:守屋友樹
撮影:守屋友樹
撮影:守屋友樹

関連イベント – ゲストキュレーターによるトーク

日時
2023年1月13日(金)、27日(金)19:00~20:00
会場
HAPS HOUSE
定員
各回10名(要申込)

カタログ

発行日
2023年3月31日
発行元
一般社団法人HAPS
編集
奥山理子、佐藤真理、有佐祐樹
デザイン
有佐祐樹
写真
守屋友樹
印刷
株式会社サンコー、レトロ印刷JAM
頁数
80頁

「キュレーションを公平(フェア)に拡張する」開催にあたって

障害者等の関わる文化芸術活動は近年大きく発展してきました。美術館やコンサートホールなどで彼ら・彼女らの作品に接する機会も珍しいものではなくなっています。とはいえ、そこには「棲み分け」があり、障害者らによるアートは良くも悪くも特別なものとされています。肯定的な反面、その背後には差別や排除があるかもしれません。

本企画は現代美術、とりわけキュレーションの諸実践を通して、この状況に積極的に働きかけるものです。障害者らが天才かどうか、その作品が優れているかどうか、という議論を一旦留保し、キュレーション実践の積み重ねによって考えを進めること。そもそも「芸術家」や「作品」という概念、その良し悪しは、安定して存在しているのではなく、キュレーションの積み重ねによって、絶えず「実務的に」変更されてきたものです。気鋭の現代美術キュレーターによる展覧会制作を通して、小さな躓きの一つ一つを確認し、着実に「開かれた、公平なアート」へと歩みを進めることが本企画の目指すものです。(一般社団法人HAPS)