もぞもぞする現場2からのレポート:水戸芸術館「アートセンターをひらく」展の事例から
2024. 5. 11
内山幸子(アートマネージャー/本事業コーディネーター)
もぞもぞする現場2
——芸術と障害にかかわるひとたちの、ネットワークづくりのためのアセンブリー
ミート・アップ第6回:
竹久侑さんから水戸芸術館「アートセンターをひらく」展のお話をきく
日時|2023年12月8日(金)19:00-21:00
講師|竹久侑(水戸芸術館現代美術センター 芸術監督)
会場|京都市立芸術大C棟3F カフェ・コモンズ
はじめに
芸術と障害(disability)について「そもそものところ」から考え、話す機会として始まった「もぞもぞする現場」の2年度目。芸術と障害という問題意識をベースにしながら、美術館の未来について考えるという趣旨のもとに全8回のミート・アップを開催した。筆者は企画チームの一員兼コーディネーターとして初年度からこの場に立ち会っている。2023年度は、参加者の方々と月2回程度、京都市立芸術大学の新キャンパス内にある小さな共有空間であるカフェ・コモンズに集うのだが(第3回のみ会場が異なった)、みなで夜な夜な集まって、誰に頼まれるでもなく「未来の美術館」を妄想するというのは奇妙な面白さがあった。しかし、そこで語り・語られる美術館の未来像には「こうあってほしい社会の未来」へのそれぞれの想いが込もっていて、回を重ねるごとに場の一体感が増し、集会らしくなっていった。
本稿は、水戸芸術館現代美術センター芸術監督の竹久侑さんをお招きし、2019年度と2023年度に計2回開催された「アートセンターをひらく」展についてお話をうかがった、ミート・アップ第6回のレポートである。ちなみに第5回と第7回のテーマは《「未来の美術館」を構想する》だった。司会進行役の小山田徹さんは冒頭で、「私たちが妄想を繰り広げていることを、先んじて具体的に実践している方なので、色々お話を聞いて私たちのアイデアのもとにしていきましょう」と語った。

1990年に開館した水戸芸術館(以下、「当館」と称する)は、公益財団法人水戸市芸術振興財団が指定管理者として運営する水戸市の公立文化施設である。コンサートホール、劇場、現代美術ギャラリーをもつ複合文化施設で、音楽、演劇、美術の3部門がそれぞれに自主企画事業を展開している。開設時には、水戸市の予算の1%を当館の運営補助金に充てるという運営方針でも注目された。
竹久さんは、「『アートセンターをひらく』展はこれまで2回開催していて、もう出来上がった企画のように思うかもしれませんが、私もわりと“もぞもぞ”しながらやってるんです」と前置きしつつ、どんな状況や条件のもとで、どんなことを検討しながら企画を立ち上げていったのか、語り始めてくださった。それは、アート作品の収集や保存をミッションの一つとする美術館とは異なる立ち位置で、国・自治体の政策や社会課題や市民のニーズと、それらの変化にも対応しながら、地域のアートセンターとしての可能性を模索するための試みに満ちていた。
本稿では、講座のレポートに入る前に、竹久さんが冒頭で触れた2000年代以降の文化政策や社会の状況について、今一度確認したいと思う。

2000年代以降の文化政策や社会の状況
以下の記述は、筆者が調べてまとめたものである。
文化芸術分野の政策や法律を専門とする作田知樹によると[*1]、第二次世界大戦後の日本では、経済復興とともに民間主導の文化振興が活発になると、地方公共団体、特に革新的な首長が率いる自治体を中心に自主的・積極的な文化振興行政が行われ、1960年代から80年代にかけて条例の制定や文化施設の設置が実現されるようになった。バブル期の美術館建設ラッシュの中、現代美術を扱う公立施設として全国で2番目に開館したのが当館である(1番目は1989年開館の広島市現代美術館)。こうした地方の動きに遅れて、国(文化庁)は2001年に文化芸術振興基本法(2017年に文化芸術基本法と改称)を制定し、日本における文化芸術の振興にあたっての基本理念を定め、国の役割として、文化芸術の振興に関する基本的な方針を策定した。しかし残念ながら、このことは文化予算の充実への追い風にはならず、むしろ「官から民へ」「中央から地方へ」といういわゆる構造改革のなかで、国から地方自治体の美術館などに支出されていた運営補助金が廃止され、自治体に交付される地方交付税が一般財源に組み入れられることになった。また、2003年の地方自治法改正によって指定管理者制度が導入され、地方自治体の文化施設は資金面でも厳しい状況にさらされるようになった。
さらに、文化庁は文化芸術振興基本法以降、4次にわたる基本方針を策定。国の文化政策は、「ソフト・パワー」「知財立国」「クール・ジャパン」「2020年東京オリンピック・パラリンピック開催決定」「インバウンドの促進」など、新たな政策課題と結びつき拡張されてきた。
2017年の法改正では、美術館等に求められる役割は文化芸術の振興にとどまらず、観光やまちづくり、国際交流、福祉、教育、産業、その他関連分野における政策と連携して、総合的な文化芸術政策を推進していくものとなった。当館現代美術センター(以下、「当センター」と称する)が地域のアートセンターとしての役割を追求するなかで主体的に進めてきた福祉や教育分野との連携の必要性を、この法改正が裏付けたと言えるだろう。
さらに、2011年の東日本大震災、福島第一原子力発電所事故、2020年からのコロナ禍といった、社会を大きくゆさぶる出来事もあった。竹久さんは「開館当初は現代美術を扱う公立施設ということで注目されたが、様々な社会状況の変化のなかで、30周年を迎える水戸芸術館現代美術センターに、地域のアートセンターとしてどのような役割と可能性があるのか、改めて考える必要があった」と語った。
「アートセンターをひらく」ができるまで
以上、筆者が調べた2000代以降の文化芸術を取り巻く政策や社会状況についておさらいしたが、ここからは竹久さんによる講座でのお話に戻る。
2019年度に開催した「水戸芸術館開館30周年記念事業」の企画にあたり、竹久さんは当センターが「クンストハレ型の美術館」であることに立ち戻った。「クンストハレ」とは「コレクションを持たず、展覧会の開催に専念する点にその特色がある」[*2]とされ、「現代美術センター(contemporary art center)」は、「主として公的資金で運営される、作品の収集を目的とせずに美術作品の創作をプロデュースする機関である」[*3]と説明される。竹久さんはこれを当センターの特色であると改めて確認した上で、その独自性とはどういう点にあったのかを振り返りながら、「アートセンターをひらく」展を構想していったという。
当センター独自の事業として竹久さんがまず注目したのは、1993年にスタートした教育プログラム「高校生ウィーク」のなかで、2004年から始まった期間限定カフェだ。「高校生ウィーク」とは高校生向け入場無料月間のこと(当時。現在は高校生の入場料は無料)。ギャラリーの奥にあるワークショップ室に設置された期間限定のカフェの運営に高校生たちがボランティアで携わりながら、3人集まれば企画提案ができる「部活動」に参加するなど、自由に読書や工作ができる空間の中で様々な活動が行われてきた。時間をかけて準備する企画もあれば、その日その場に居合わせた人同士から生まれる小さな活動もあるという。カフェは、高校生、地域の大人、アーティスト、そして来館者が思いおもいに過ごし、出会いを通じて活動が生み出されていくプラットフォームだったわけだ。また、いつの頃からか、日々なじめなさや窮屈さ、生きづらさを感じる高校生たちもここに通うようになったそうだ。竹久さんは、かれらにとっての「高校生ウィーク」のカフェが、一時的にでも「アジール」や「サードプレイス」になっているということを実感したという。社会に目を向けると、スマートフォンやSNSの普及によって情報環境やコミュニケーションのあり方が変化するなかで、竹久さんは、実在の空間で多様性が尊重された対話のできる公共空間として、美術館/アートセンターの価値を捉え直したいと考えた。
もう一つ、当センターの特徴として着目される点は、クンストハレ型の美術館であることをバックボーンに展覧会の自主企画に注力してきたことと関係する。それは自ずとアーティストによる新作の制作へとつながり、当センターは「アートが生まれる場」となってきた。そこで2019年度の「アートセンターをひらく」(以下、「2019年度展」と称する)は、第Ⅰ期のテーマを「創作と対話」、第Ⅱ期のテーマを「展示と対話」とし、創作から展示までのプロセスが来場者の目に見えるかたちで開催された。期間中は、アーティストによるパフォーマンスやトークの他、様々なワークショップを週末ごとに実施し、映画とセットに座談会を開催するなど、対話を促すプログラムも多数行われた。
「アートセンターをひらく」(第Ⅰ期:2019年3月2日~2019年5月6日)
「アートセンターをひらく 第Ⅰ期」では、来場者がギャラリーを巡る際に最初に立ち入る第1室に、「高校生ウィーク」の拡張版としての「ひらくカフェ」を設置。工作や手芸などの活動ができる無料の作業スペースとして来場者に開放され、フォーラムの開催時には対話の場にもなった。「多世代のための多目的な場」とし、高校生をキーターゲットとしながらも、より意識的に多世代を見据えて空間が設えられ、プログラムが企画された。ギャラリーの第2室から先は、第Ⅱ期の展示に向けて滞在制作するアーティストたちのスタジオや長期ワークショップの会場となり、週末や祝日の公開時には、アーティストたちが制作したり展示のシミュレーションをする様子を見学することができた。アーティストたちと「朝ごはん会」などを通じて交流する機会も設けた。なんと、一部のイベントプログラムを除いて入場料は無料で、カフェの飲み物や工作や手芸の材料も無償で提供されたという。
来場者アンケート(自由記述回答)では、「創作が楽しかった」「創作できる場があった」といった「創作の場であること」に言及した評価が全体の28%、カフェでの「居心地のよさ」や「親しみやすさ」に言及した評価が全体の26%あり、さらに「多様な楽しみ方ができることのよさ」に言及した評価が全体の18%あったという。
「アートセンターをひらく」(第Ⅱ期 :2019年10月26日~2020年1月26日)
そして「アートセンターをひらく 第Ⅱ期」。「ひらくカフェ」はギャラリーの最奥の部屋に移動してさらに活動を続けつつ、展示室は第Ⅰ期を通じて制作されたアーティストたちの作品展示を軸として構成。会期中には、鑑賞プログラムや長期ワークショップの発表会、座談会や工作ワークショップなど、第Ⅱ期でも対話を促すプログラムが多数実施された。
ここで竹久さんは、かつて国立民族学博物館の吉田憲司館長が、美術史家ダンカン・キャメロンによるミュージアムのありようを類別した言葉、「テンプルとしてのミュージアム」と「フォーラムとしてのミュージアム」を引用し語った言葉を紹介した。吉田は、「すでに評価の定まった“至宝”を拝みにくる神殿のような場所」――テンプルとしてのミュージアムに対し、フォーラムとしてのミュージアムを「未知なるものに出会い、そこから議論が始まる場所」と説明し、「人が集い、新たな文化を創り出す装置」とした。それは、2019年度展が目指した姿勢とも一致していると竹久さんは語る。そして、美術館=芸術作品を鑑賞する場という従来の機能から逸れて、人々が対話しながら創作活動に携わることができたり、気負わずにいられる場所としてミュージアムを組み替えた本展の試みに手ごたえを感じたと振り返った。
じつは、「もぞもぞする現場2」の企画会議やミート・アップで繰り返される対話のなかには、「入場料が高かったり、子ども連れだと行きにくかったり、子どもにとっても大人にとっても美術館が遠い場所になっていないか?」「美術館の企画が『美術館に行かない人』が視野の外になりがちではないか?」という声があった。美術館のありようを変えることは難しいけれど、美術館の機能に何かをプラスすることで「美術館体験」をアップデートする提案はできるのでは?ともぞもぞ考えていた私たちにとって、竹久さんのプレゼンテーションは至極プラクティカルな実践事例だった。

「アートセンターをひらく2023―地域をあそぶ」(会期:2023年7月22日~10月9日)
2019年度展で手ごたえと課題を得たものの、日本では2020年1月から新型コロナウィルスの感染拡大が顕著になり、その後の展開を具体的に構想することが難しい状況が続いた。そこから約3年を経てようやく実現したのが「アートセンターをひらく2023―地域をあそぶ」(以下、「2023年度展」と称する)である。
背景として、水戸市が進めている、当館と当館隣に移転した新しい水戸市民館及びその隣の京成百貨店が立ち並ぶエリア「Mitorio(ミトリオ)」を水戸市の中心的なにぎわいの拠点とする構想があった。そこでは同エリアが「水戸市全域をリードする街の活性化のエンジンとなることにより、まち全体が潤い、持続的に成長できる活力あるまちを実現できるよう、周辺の商店会や観光資源等と連携した様々な施策に取り組む」[*4]ことが目指された。コロナ禍でなかなか踏み切れなかった2019年度展の続編企画は、上述の市の施策に応じる企画として、ついに進められることになったという。
2023年度展では、引き続き「アートが生まれる場」であることを企画の中心に据え、2019年度展と同様に来場者が創作できるスペースを設け、その表現によってギャラリー空間が更新され、新たな何かが生まれていく「創作のプラットフォーム」となることを探求した。昨今の状況では館の経営を度外視するわけにはいかず入場料は有料となったが、900円で会期中何度でも入場できるフリーパス制チケットにした。ギャラリー第1室の創作スペース「ひらくの間」や、終盤の展示室におけるアート・コレクティブのKITAによる「KITAの間」が、それを象徴する空間だったと言える。「ひらくの間」にはアーティスト考案のワークショップ・プログラムが常設され、またいつでも誰でも自由に創作できる素材や道具が常備され、参加者が創作した作品が増えると、それに伴って会期中のギャラリーの風景がどんどん変化していった。「KITAの間」では、来場者が一緒に空間を飾り付けたり、インドネシアのメンバーとオンラインで一緒に遊んだりしながら、様々な違いを超えていかに「ともにいる/つくる」か、が試みられたという。
さらに、体系的なコレクションを持たない当館だが、当館の展覧会に出品された作品の一部や教育プログラムを実施する中で制作された作品などが収蔵されており、2023年度展では「地域」と「あそぶ」をキーワードに収蔵品の一部が公開された。筆者は2019年度展の第Ⅱ期と2023年度展を実際に鑑賞したが、特に2023年度展では、当センターが2000年代前半から注力してきた地域と連携してアートを生み出そうとする取り組みと、現在進行形の創作プラットフォームとしての「ひらくカフェ」や「KITAの間」の活動をひと続きに見ることで、地域の美術館/アートセンターとしての当センターの役割と可能性について、展覧会を訪れる市民にも共に考える機会をひらこうとしているように思えた。
最後に竹久さんは「美術館は、芸術作品を鑑賞する場に他ならないが、それだけではない。そのようなイメージを揺さぶりながら、アートの楽しみ方の幅を広げていけるか、また、アーティストが見せる多様な価値観や視点によって、いろんな気づきや学びが得られる地域の場として、美術館/アートセンターをどのように機能させていけるか、もぞもぞと模索している」と語った。

おわりに(レポーターの所感)
竹久さんの、運営者である行政の方針や社会の状況に応答しながら企画を進める手腕に感嘆しつつも、「もぞもぞする現場」に集う私たちは、文化政策という名目で行政から降りてくるプログラムをただ待つのではなく、美術館/アートセンターの鑑賞者や利用者の側からも提案したいというそれぞれの動機があって、対話を続けている。「未来の美術館」像として私たちが妄想しているアイデアや提案には、その仕組みを安全に運用する方法の検討や、また専門家が積み上げてきた本来芸術が目指すべきありように即しているかといった議論の余地はもちろんある。しかし、美術館/アートセンターの側には「テンプルとしてのミュージアム」から「フォーラムとしてのミュージアム」へと変化していこうとする一つの動きがあり、かたや「もぞもぞする現場」では、アートや福祉等の領域で文化芸術活動に携わる様々な参加者たちが旧来的な美術館/アートセンターを「観に行けば勉強になるけど、何だか遠い存在」だと感じていて、かれらが日常で関わる様々な現場の視点から、「もっと現実に即して変化すればよいと思っている。これを双方から変化への機運が高まっていると捉えるのは早合点だろうか?「もぞもぞする現場」は小さな集まりではあるが、様々な人たちの力を借りて、アイデアを具体化する道を虎視眈々と狙っている。関心のある方はぜひ合流していただきたい。
[*1]
作田知樹「アートに関する法律入門─改稿版─:文化芸術基本法の社会的背景」
ネットTAM、2019年7月4日
https://www.nettam.jp/course/law2019/1/(2024年3月15日閲覧)
作田知樹「アートに関する法律入門─改稿版─:多様な主体による文化への取り組みと、文化芸術基本法の関係」
ネットTAM、2019年8月9日
https://www.nettam.jp/course/law2019/2/(2024年3月15日閲覧)
[*2]
星野太「Artwords(アートワード):クンストハレ」
artscape、2024年03月11日最終更新
https://artscape.jp/artword/5824/ (2024年3月15日閲覧)
[*3]
水戸芸術館現代美術センター編『現代美術辞典90s』
水戸芸術館現代美術センター、1997年、P.76
[*4]
水戸市民会館ホームページ
https://www.mito-hall.jp/guide/mitorio.html (2024年3月15日閲覧)
講師プロフィール
竹久侑(たけひさ・ゆう)/水戸芸術館現代美術センター 芸術監督
展覧会およびプロジェクトの企画と実践を通して、地域社会におけるアートセンターの役割を探求し、芸術と社会の交わる領域を耕すことを目指す。地域社会におけるアートセンターの役割を改めて探求する「アートセンターをひらく」(2019-20)と「アートセンターをひらく2023-地域をあそぶ」を企画担当。その他の主な展覧会に、「3.11 とアーティスト:10 年目の想像」(2021)、デイヴィッド・シュリグリー「ルーズ・ユア・マインド-ようこそダークなせかいへ」(2017-18)、「石川直樹 この星の光の地図を写す」(2016-17)、「田中功起 共にいることの可能性、その試み」(2016)、「3.11 とアーティスト:進行形の記録」(2012)等。
水戸芸術館現代美術センター